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きゃたのーつ ver.1.1

エリートぼっちの文芸倉庫

【SS】Win-Win

SS

こんにちは、きゃたぬきですU・x・U

前回はこちら!

catanuki.hatenablog.com

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Win-Win

 

抉る寒さと人混みの熱気が交わる通勤ラッシュに、それは起きた。
「誰か、誰か来てくれ!人が倒れたぞ!」
声のした方をむくと、

中肉中背、四十代程の男が

うつ伏せに倒れている。

そこを中心に半径三、四メートルの空間が広がる。
その叫びとともに、円の外周が写真を撮り始めた。
SNSへ投稿するか否かは重要ではない。

向かう先の話題として、

三十秒稼ぐことが出来るかにのみ

意識が向いている。
彼らは写真の投稿を終えると直後の集団と交代し、

満足げに通勤を再開する。


「とりあえず、心臓マッサージをしておけ!」
誰かの声に応じて一人の青年が向かう。

仰向けにした男のワイシャツを引き裂き、胸を露わにさせた。
続けて蘇生を始めようと思い立ったが、

機械でショックを与えるのが先ではないかと思考を巡らす。

冷静な判断と考えられるが、しかし彼の意識は別にある。

むさ苦しい男との人工呼吸を回避するべく行動したのであった。

誰が好き好んで中年男の乾燥した唇へ口づけをするのだろうか。
「そこのあんた、AEDを持って来てくれ!」
近くの女性へ依頼し、

満足げな男は勇み足でその場を去った。


その頃、救急車を呼ばんとする者たちで

ホームは溢れかえっていたが、

誰一人としてコールしない。
「こんなに優しい人で溢れている。この国も捨てたもんじゃないな」
などとという思いは建前、

電話した本人が事件に関わる懸念、そこへ人任せの事なかれ主義が重なったのだ。

各自電話のふりをした後、

微笑を浮かべつつポケットへ戻す動作を行ない、

満足げに電車へと乗り込む。


AEDを持ってくるよう頼まれた女性は

医療現場に勤めていたこともあり、

迅速に目的の場所へと辿り着いた。しかし同時に強い怒りが芽生えていた。

というのは彼女の上司、

何かとつけて医療器具を取らせに遣いをやるのだが、

如何せん発音が悪い。

紙と花瓶を間違えるなどして怒鳴られた、理不尽な過去は数多い。
「駅員さん、あそこで人が倒れているそうです」
あくまで無関係を装いつつ役割を押し付ける素ぶりは、

現場で鍛えられていたために難なく成功した。

彼女は満足げに改札を出ていった。

 

一方で役目を押し付けられた駅員は、

上司にベットリな指示待ち人間であった。
「困ったな、命令されていないのに失…」
そして思いつく。

女性から言われたのは「倒れている」という状態。

近くにあるAEDが必要とは限らず、そしてなによりもだるかった。
「倒れているらしいから、救急車が来るだろう。素人が関わる問題ではない」
だんまりを決め込んだ駅員は、

持ち場の発車ベル調整を

満足げに再開した。

 

数時間たち、泥酔の為に倒れこんだ男が目を覚ました。

寒さの中で大衆に晒され、

胸を露わにしているのは何故だろうと、思考を巡らすが理解できない。ただ一つ分かるのは、

電子世界に拡散された裸体が、

相当の笑いダネにされている事である。
「このチャンス、無駄には出来ない」
売名に繋がると考えた飲み会帰りの若手芸人は、

その場で満足げに服を脱ぎ捨てた。

 

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以上、またこんど!

きゃたぬき

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