きゃたのーつ

熱狂的ファンへの備忘録

【SS】天才

こんにちは、きゃたぬきですU・x・U

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天才

 

「なんだ、お前も描いてるのか」
窓越しに差す光とともに、休み時間の図書室へ校庭の声が心地よく響く。
その奥の一角、自習スペースでIは声をかけてきた。
「時々ノートの隅に描いてたの、知ってるぜ。どうして見せないんだ」
「いや・・・」
いいからいいからと、

Iは強引にノートを取り上げ、パラパラとめくる。
「ふぅーん、あの漫画が好きなのか。ミーハーだな」
と、自尊九割に呟く。

絵が目に入っているのか、疑わしい。

 

Iは時々漫画のキャラを模写して、

クラスでそれとなく自慢する面倒な奴だ。
「お前な、芸術ってのは人に見せないとダメなんだよ。どれ、俺の絵と比較してもらおうぜ」
言うが早く図書室を駆け出していった。
ノートを取られた手前、戻らざるを得ない。

 

教室へ戻ると、Iと行動を共にするグループが
机を囲んで固まっているのを確認できた。
「な、あいつこんな絵描いてんだってよ」
そのセリフには紛れもない侮蔑の情が籠っていた。
俺のほうがうまいだろうと暗喩するIの心境が
手に取るようにわかった。

 

「いや、知らなかった。普通にすごい上手い」
「本当だ、絵に動きがある」
「線に無駄がない」
「え?そんなことなくないか?てかこいつ全然絵柄似てないじゃん」
「模写すれば絵柄を似せるのなんか誰だってできるって」
「なんだろう、どこかで見た事ありそうなユニークな絵」
「でも多分自己流だよね」
「いや、なんかガキっぽいし、全然漫画っぽくないじゃん」

 

もはやグループにIの居場所はなかった。
4時間かけて描いた絵を30分だと偽り、
漫画をトレースしただけの絵を自慢する。
同人誌を作ろうと言い出した張本人が、
高い機材がないのと忙しさを言い訳に
1ページも完成させていない事実は既に聞いている。
有言無実の厄介者は消える運命である。

 

「いいよ、お前ら、あいつと仲良くするなら俺は絶交だわ」
捨て台詞を吐き、残り3分の休み時間で教室を出ていった。
「面倒な奴がやっと消えてくれたよ。これからよろしくな」
同じ母校を卒業したGとは、よく絵を描いて琢磨した仲である。
不断の努力の成果は、先ほど確認されたようだ。

差し出された手を取り、固く握り締めた。


それから数年たち、イラストレーターとして安定した収入を得るようになったある日。
SNSで懐かしい人物の投稿が目に入った。
今はどこかに就職したらしい、Iのものだ。

 

山積みになった過去のノートを眺めながら、ふと思う持論がある。
努力を嫌い、

本気という妄想で実力を偽る。
彼らは自分の得意分野を抜かされると、

必ずこれを口にするのだ。

 

「あいつは本当に、『天才』だからな」

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以上、またこんど!

きゃたぬき

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